機動戦士ガンダム00

砂の中に埋もれた天使たちのための前奏曲(プレリュード)


登場人物

 ソラン・イブラヒム(刹那・F・セイエイ)
 クルジス共和国の少年兵。優れた戦闘能力を発揮するが、信仰や民族に疑問を持っている。

 カジ・バルザーニ
 クルジス共和国の大統領。優れた戦術眼と戦略眼を持っているが、現在はそれを封印し、政治家であろうと努めている。

 アリー・アル・サーシェス
 クルジス共和国軍の軍事教官として、トルコよりやってきたクルド人。バルザーニの古くからの友人。

 アブドル・イスマイール
 アザディスタン王国国王。クルジス共和国誕生の立役者の一人でありながら、突如クルジス共和国に侵攻を始めた。

 サイード・ギュネイ
 ソレスタル・ビーイングの潜入工作員。クルド人。

 ロックオン・ストラトス
 ソレスタル・ビーイングよりクルジス共和国に派遣された傭兵。10代にして裏の世界では優れた狙撃手として知れ渡っている有名人。



本編


西暦2307年 刹那・F・セイエイ

“俺は、死ぬのか……”
 全身がバラバラになりそうな衝撃波の中、刹那の脳裏に浮かんだのは、六年前から止まったままの時間の中にある、記憶だった。
“こんなところで……何も出来ずに……”gundamexia
 浮かんでは消える走馬灯のような記憶の断片。
 そこには希望も、未来も、救いも、何もなかった。
“何者にもなれず……俺は!”
 刹那の心の叫びに、己の肉体はおろか、エクシアの機体さえも、まるで反応を示しはしなかった。
 アリー・アル・サーシェスの、蜘蛛を思わせるモビルアーマー・アグリッサの下半身から発せられる高エネルギー周波に捕らえられたまま、死を待つ哀れな存在。それが今の刹那の姿である。
 その時、エクシアの通信回線用スピーカーから、微かながらサーシェスの声が漏れ聞こえて来た。
「クルジスのクソガキが……消えちまえ……クルド人も神も……何もかも消えちまえ」
 記憶のフラッシュバックの中、サーシェスの呪詛に誘われるように、刹那の意識は六年前のあの日へと、ゆっくりと沈んでいった。


西暦2301年 ロックオン・ストラトス

 その男からは、凄まじい殺気と血の匂いが発せられていた。
 いくら隠そうとしても、その内から漏れてくる、むせかえるような地獄の匂いは隠しきれるものではない。
 ロックオンの眼の前にいる殺戮の芳香を漂わせている男こそ、このクルジス共和国の初代大統領にして、軍事の天才と謳われたカジ・バルザーニその人であった。
「ソレスタル・ビーイング……聞かぬ名だな」
 バルザーニはそう言うと、ギロリとロックオンを睨み付けた。
「まあ、そうでしょうね。表立った活動はしていませんしね、今はまだ」
 ロックオンは、バルザーニの視線を受け止めてなお、微笑んで見せた。
「しかし、君の名は知っている。ロックオン・ストラトス。もはや裏の世界でその名を知らぬ者はいないからな。わずか2年程か、アフリカ、南米、アジア、紛争地帯に現れては首謀者を狙撃してまわっているらしいな」
「お望みなら、アザディスタン国王アブドル・イスマイール。狙い撃ちますよ」
 ロックオンは片目を閉じると、片手で銃の形をつくり、バルザーニに向かって撃つ真似をしてみせた。lockonstratos
「ハッハッハッハッハッ!」
 バルザーニは笑い声をあげた。
「若いな、君は。本当に若い」
 バルザーニの言葉に、ロックオンはおどけるように肩を竦めた。
「彼を殺しても、私を殺しても、何も変わらない。確かに、我々二人を葬り去れば、今目の前にある紛争は終わるだろう。だが、ゲリラ、テロル、戦いは継続される。我らがクルド人であるかぎり、戦い続けなければならないのだ。例えクルジスが滅んだとしても、地下に潜み、牙を磨き、爪を研ぎ、奴等の喉笛に喰らいつくまで……」


ヒジュラ暦1655年 ソラン・イブラヒム

“神なんていない!”
 それがソランの唯一の信仰だった。
 クルジスの兵士、特に10代までの少年兵達により構成されているKPSAは、ほぼ完全に原理主義の洗礼を受け、戦争という狂気の中でその信仰を先鋭化させていった。
 しかし、その中で彼だけは違っていた。
 なぜかは判らないが、引き金を引くたびに、人を殺すたびに、自分の中に冷たい澱のような何かが育って行くのを感じていたのだ。
 それはもしかすると、疑念と失望と諦めで出来た塊であったのかも知れない。
 廃墟と化したハラブジャの街で、ソランら少年兵達は最後になるかもしれない食事をとっていた。
 ハラブジャの西に駐屯するアザディスタン部隊に対する奇襲作戦。
 それは自殺にも等しい作戦である。
 50名にも満たない歩兵、もちろん、モビルスーツなどは配備されていない。装備は全て個人用の携行武器のみで、前時代の単発式ミサイルランチャーと、人革連からの供給品である旧式のバリシニコフ自動小銃、そして自爆用の手榴弾……クルジスの未来は少年達の玉砕という形で繋がっているのだ。
 ソランは仲間達から離れ、一人だけで食事を摂っていた。アッラーへの信仰とクルド人の未来について議論を戦わせている仲間達の輪の中に入ることがどうしても出来ないのだ。
 いつものように、熱い議論はいつしか言い争いに変わる。
 見慣れた馬鹿馬鹿しい光景が今日も繰り広げられている。
 言葉が暴力に変わる。
 伝染する情熱。
 ソランにとっては全てがうんざりとする時間だった。
 しかし、今日はいつもとは少し違っていた。
“何が?”
 ソランは自分の心に問いかけた。
 思わずバリシニコフのグリップを握り締める。
 奇妙な違和感に導かれるまま、注意深く少年兵達の一団を見詰める。
 ソランは眼を見開いた。
 少年兵の一人が手榴弾を握り締めた手を天に突き上げていた。
 手榴弾のピンは……抜かれている。
 閃光が少年兵達を包んだ。
 爆音と共に少年達の体が肉塊となって飛散する。
“なんだ、これは”
 あまりの馬鹿馬鹿しさにソランの思考は一瞬だが停止していた。
 パニックと喧騒が周囲を支配している。
“見つかったな”
 ソランの中の冷静な部分が結論を下す。
 思考の回復を待たずにソランの体だけが反応していた。
 自動小銃を肩にかけ、ランチャーを掴むと、ソランは誰よりも早くその場から走り出していた。


ヒジュラ暦1655年 アリー・アル・サーシェス

 サーシェスは満足していた。
 彼の思惑通り、原理主義という名の甘い果実は、瞬く間にクルジスの若い兵士達を捕らえていったのだ。
 この戦いでクルジス共和国は完膚なきまでに破壊されるだろう。クルドの夢の破片がまた一つ壊れるのだ。
それでいい、それでいいのだ。
 クルド人の夥しい量の血が噴出するたびに、世界に呪詛が撒き散らされるのだ。
 彼が生み出したKPSAは、クルジスが滅びようとも生き続けるだろう。原理主義と民族主義の矛盾に窒息しながら闇に沈み、牙を突き立て、世界を呪詛の炎で包むのだ。
 そこまで考えて、彼は自分自身に驚きを感じていた。
 自分の中にまだ、こんな熱いものが残っていたことに。
 クルジスの太陽に焙られたせいだろうか、すでに捨て去ったはずの感情に支配されたのは……自分にはやらなければならないことがある。
 そう、彼はすでに悪魔との契約を終えているのだ。
 帰れない、あの頃には。どんなに望もうとも、焦がれようとも。
 サーシェスは一人自嘲気味に微笑むと、通信機のスイッチを入れた。
「こちら砂漠の狐、穴熊、応答せよ。こちら砂漠の狐……」
〈こちら穴熊、確認した。現在の状況を報告せよ〉
「現在、レヴェルEクリア。次の指示を」
〈了解した。最終レヴェルへの移行を許可する〉
「了解。最終レヴェルへ移行する」
 通信を終えたサーシェスの頭に一人の少年の笑顔が浮かんで来た。
 懐かしい笑顔、過ぎ去った日々、守るべきもの、全ては遠い過去の亡霊……。
 懐かしい笑顔の少年の顔はいつの間にか、別の少年の顔に変わっていた。
「ソラン……イブラヒム……」
 その顔はサーシェス自身が死地に送り込んだ少年のものだった。
 おそらく、戻って来ることはないだろう。
 なぜかは分からないが気になる少年だった。
「カマル、お前は許してくれるだろうか……」
 サーシェスはそう呟くと、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
 最後の引き金を引くために。


ヒジュラ暦1655年 ソラン・イブラヒム

 ソランはガレキの下で身を潜めながら、戦況を見詰めていた。
 アザディスタン軍のMS、アンフの古めかしい駆動音と機銃掃射の音の合間に手榴弾の爆音が響く。
 戦闘が始まって約30分、敵軍のアンフの数にまるで変化はなかった。
 統制を失い、パニックに陥った軍隊に勝機などあろうはずもない。ましてや軍備、戦力ともに圧倒的な差があるのだ、戦場では一方的な殺戮が繰り広げられているのは確実である。
 しかし、その中でソランの頭脳は状況を分析し、冷静に戦局を把握すべく回転していた。
 あるはずのない勝機を掴むべく、息を殺し、タイミングを見計らっていた。
 最早ソランの中には、神も、民族も、国家もなかった。敵を倒す……ただその思考だけに支配された戦闘機械と化していた。
 固まって作戦を展開していたアンフが個別に散開し始めた。おそらく掃討戦に移ったのだろう。その内の一体が、ソランの潜む場所に近付いて来た。
 ソランは低い姿勢でガレキの中から飛び出すと、そのままの姿勢で破壊された家屋の壁に向かって走る。アンフの死角を縫って壁に辿り着いたソランは、左脇にバリシニコフ自動小銃を固定し、右肩にミサイルランチャーを乗せた。
 ソランが潜む壁の背後をアンフが通り過ぎる。
 その瞬間、ソランはアンフの背後に飛び出し、防塵布を巻いただけの膝関節にフルオートにしたバリシニコフの銃弾を全弾撃ち込んだ。
 装甲を持たないアンフの関節はシリンダーオイルを噴出し、機体はバランスを崩して前のめりに倒れ始めた。
 ソランは、躊躇することなくアンフの股間を走り抜けると、振り向いて、倒れこんでくるアンフのコクピットにミサイルランチャーを叩き込んだ。
 着弾を確認することなく、ソランは倒れてくるアンフに潰されないよう走り、別のガレキの山の中に転がり込むように身を隠した。
 轟音とともにアンフが地面に倒れる。ミサイルランチャーの直撃を受けたのだ、おそらくパイロットは即死だろう。
 ソランは右手の射出器を捨て、左脇にはさんだバリシニコフを右手に持ち替えると、空になった弾倉を入れ替えた。
 ガレキの隙間から覗き込むと、散開していたアンフのうちの3機が固まりになり、ソランが潜んでいる周辺の捜索を始めた。
 ソランは大きく息を吸い込む。
 すでに覚悟は出来ていた。
 3機のアンフを相手にして勝つ見込みなど微塵もない。
 思わずソランは、左の胸ポケットに入れてある自爆用の手榴弾を握り締めていた。
“簡単には死なない!”
 戦い続けることだけがソランの信仰だった。


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西暦2301年 ロックオン・ストラトス

 ロックオンはアザディスタン王国にいた。
 ソレスタル・ビーイングの潜入員が用意した隠れ家にいるのだ。
 アザディスタン王国には、クルジス共和国ほどの切羽詰った閉塞感がなかった。戦時中という緊張感がない訳ではない。それでも、その差は歴然としていた。
 潜入員のサイード・ギュネイがロックオンのいる部屋に入って来た。
「ユニオンの連合軍がアラビア海上空に差し掛かったそうだ」
 サイードの呼びかけに、ロックオンは俯いていた頭を上げた。
「動きが速いな。やはり、筋書き通りってことか」
 ロックオンの言葉にサイードが頷く。
「この紛争で、先進国の旧式の武器は廃棄終了、アザディスタンも経済的に火の車、結局勝つのは強い奴で、割を食うのは弱者……俺達クルド人はいつでも使い捨てだ」
「後悔しているのか、サイード。ソレスタル・ビーイングに参加したことを」
「いや、後悔はしてないよ。ただ、どうにもやるせないというか……」
ロックオンは椅子から立ち上がり、サイードの肩を軽く叩いた。
「俺たちがやるしかないのさ、他に手はない。世界を敵にまわすことになっても」


ヒジュラ暦1655年 アリー・アル・サーシェス

 大統領執務室で、バルザーニとサーシェスは、向かい合って座っていた。
「久しぶりですな、大統領と二人きりというのは」
「すまないな、大佐には軍のことをまかせっきりにしてしまって」
「当然のことですよ。大統領にはやるべきことがあるんですから。それに戦争以外、自分には取柄がありませんしね」
 そう言ってサーシェスは微笑んだ。
「しかし戦局は最悪です。マハバードの包囲網は日一日と縮められて来ていますから」
 頷くバルザーニ。
 サーシェスは椅子から立ち上がり、バルザーニのデスクの前に立った。
 バルザーニのデスク上には、クルジス共和国の周辺地図が映しだされており、自軍と敵軍の配置が表示されている。
「策はあるかね」
 サーシェスは地図上の一点に指を置いた。
「ここに、KPSAの精鋭部隊ペシュメルガを派遣しました」
「奇襲か?」
「はい」
「それでもし、ここを抜けたとしてどうする?」
 サーシェスは首を左右に振った。
「どうにもなりませんな」
 サーシェスの言葉に、バルザーニは顔を上げた。
 バルザーニの額に金属の感触が当たる。
「こうする以外には」
いつの間にかサーシェスの手に拳銃が握られていた。
「あまり驚かないんですね」
 サーシェスの顔色に、少しの苛立ちが混じっていた。
「ソレスタル・ビーイングという組織に心当たりはあるかね」
「聞いたことありませんな」
「ロックオン・ストラトスという男の名を聞いたことは?」
 サーシェスは少し考える素振りを見せたあと、大きく頷いた。
「そういやあ、ここ最近、派手に暴れまわってるスナイパーで、そんな名前を聞いたことがありますな」
「その男が数時間前にここに来た」
「それで……」
「君がPMCの非合法員、ゲーリー・ビアッジ准尉だと言っていた」
 サーシェスはわざとらしい笑い声をあげた。
「なんだ、知ってたのか。しかし、あんたも腑抜けたもんだ。昔のあんたなら、それを知った瞬間に、俺をブチ殺してたろうに。そんなに政治家ってのは気持ちのいいもんなのかい」
 バルザーニの唇の端が歪んだ。
 それは凄惨な笑みであった。
「てめえに言われたかあねえな。姑息なまねしやがって。アリー、てめえには誇りはねえのか、クルド人としての誇りは!」
 サーシェスの顔色が変わった。alialsaachez
 サーシェスは拳銃を握ったままの拳でバルザーニを殴りつけた。
 バルザーニの鼻骨が嫌な音をたててひしゃげ、両の鼻の穴からドロリとした血が流れ出した。
 バルザーニは顔色一つ変えず笑顔のままサーシェスを睨んでいる。
「クルド人としての誇りだと、笑わせるんじゃねえ。あんたらのその考えが俺達を追い込んでいったんだろうが。あんたら古い連中の族長主義のおかげで俺達がどれだけ苦労したと思ってるんだ!」
「撃てよアリー。俺を殺して何かが変わると思ってんならな。けどな、何も変わらねえし、何も終わりゃしねえ。てめえの信じる神が誰だろうと、俺たちゃクルド人だ。それだけは変わりゃしねえ」
 サーシェスの顔つきが落ち着いた。
「残念だったな。俺も神なんて信じちゃいねえ、クルドだってどうでもいいんだよ。俺が信じてるのは、金だけだ」
 サーシェスは自嘲気味に微笑むと引き金を引いた。


ヒジュラ暦1655年 ソラン・イブラヒム

 ソランは走り続けていた。
 行動を起こす前にアンフに見つかったのだ。
 無駄とは知りつつもバリシニコフの銃弾をばら撒きながら走った。
 負けたくなかった。
 何にかは分からない。
 胸の手榴弾に手をやった。
 自爆するためではない。
 アンフに投げつける。
 自分はまだ戦えるのだ。
 しかし、いくら探しても手榴弾はなかった。
 胸ポケットにかぎ裂きに穴が開いていた。
 どこかでひっかけたのだろう。
“神なんていない”

MSER-04 ANF アンフ



西暦2301年 ロックオン・ストラトス

 ロックオンはライフルのスコープを覗きながら感じていた。
 時の刻みが引き伸ばされて行くのを。
 いつでもそうだった。
 時間に重さがあるのを感じる。
 どれくらいの時間が経ったのだろう。
 ロックオンの眼がようやく標的を捉えた。
 アザディスタン国王アブドル・イスマイール。
“狙い撃つ!”
 ロックオンの指が引き金をゆっくりと絞る。
 アブドル・イスマイールが血飛沫とともに床に沈んでいった。


西暦2301年 アリー・アル・サーシェス

「こちら砂漠の狐。作戦終了だ」
 サーシェスは通信機に向かって呟いた。
〈こちら穴熊。了解した〉
 サーシェスは小さく溜息を漏らした。
 とりあえず、今回は少し長めの休暇を取ろうかと、サーシェスは考えていた。久しぶりにカマルの顔でも覗きに行こう。土産もいつもより奮発して……通信機から聞こえてくる呼びかけが、サーシェスを現実に引き戻した。
〈聞こえてるのか?おい!砂漠の狐!〉
「すまん。少し考え事をしていた。もう一度言ってくれないか」
〈気持ちはわからないでもないがな。悪い知らせだ。確かカマル君て言ってたよな、お前の弟〉
「ああ……」
 サーシェスの胸の中をきな臭い何かが充満し始めた。
30分ほど前だそうだ。亡くなられたらしい……〉
 サーシェスの心の中で何かが弾け、彼は壊れた。


ヒジュラ暦1655年 ソラン・イブラヒム

 ソランの後ろには壁があった。
 前にはアンフが立ち塞がっている。
 バリシニコフの銃弾はすでに尽きていた。
 ソランは死を覚悟していた。
 だがなぜだろう?死にたくないという思いと、恐怖がソランの心の中を支配し始めていた。
“死にたくない!”
 ソランは心の中で強く願った。
 そして……眼の前のアンフが一筋の閃光に貫かれたかと思うと一瞬で爆発した。
 閃光が次々と降り注ぎ、他のアンフを破壊していく。
 ソランは閃光が降り注いだ天を見上げた。
 そこに天使がいた。
 青い光の翼を広げた白い天使が浮かんでいた。
 それはソランにとって、紛れもない神の光だった。


西暦2307年 刹那・F・セイエイ

「ガンダム……」
 刹那の口から祈りにも似た言葉がもれていた。
 いつしか体は自由になっていた。
 目の前を覆っていたアグリッサの姿はなくなっていた。
 その代わりに刹那の眼に映ったのは、6年前のあの日と同じ光景だった。
 青い光の翼ではないが、赤い光の翼を広げた天使……ガンダムが浮かんでいた。
 「ガンダム……ガンダムッ……ガンダームーッ!」
 刹那の叫びは、あの日と同じ神への祈りなのかもしれない。


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            砂の中に埋もれた天使たちのための前奏曲(プレリュード) 完